シャネルは、時計専業メーカーの製品に引けを取らない魅力的なコンセプトやメカニズム、さらにスタイルへのこだわりをみせるメゾンならではの魅力的な世界観を備えた腕時計作りを、1987年最初のウォッチ発売以来一貫して行ってきた。
なかでも2000年にシャネルが発売を開始した初のスポーツウォッチコレクション「J12(ジェイトゥエルブ)」はもっとも成功した、エポックメーキングな製品のひとつである。
このモデルをデザインしたのは、シャネルのアーティスティック ディレクターを数十年にわたってつとめたジャック・エリュ。彼は「永遠不滅のスポーツウォッチ」をイメージして、従来の金属素材にはないクールな輝きを持つハイテクセラミックを他社に先駆けてケースばかりでなくブレスレットにまで採用。シャネルを象徴するカラーである白と黒のコントラストを大切にした明解で機能的なデザインは、登場と同時に大絶賛を浴びベストセラーとなった。
今年はそのJ12が発売から10周年を迎え、これを記念して5年ぶりとなるコンプリケーションモデルや、海のシンボルにインスパイアされたJ12で初となる300m防水の本格ダイバーズモデルも発売された。
どちらもすばらしい完成度だが、とくに前者「J12 レトログラード ミステリユーズ」は、シャネルというメゾンの美学とエスプリとスイス屈指の複雑時計開発工房であるルノー・エ・パピ社の技術力が結晶した、複雑時計のひとつの金字塔ともいえる作品である。 |